【六川亨の日本サッカー見聞録】W杯予選で脅威を感じたポゼッションサッカーの未来
2017.09.02 10:00 Sat
▽日本代表が昨夜、オーストラリアからW杯予選で初勝利を奪い、6大会連続のW杯出場を決めた。埼玉スタジアムで試合を取材していたため、渋谷のスクランブル交差点などでサポーターが喜びを爆発させたのを深夜のテレビや今朝の新聞で知り、改めて“日本代表(サッカーではなく)”の影響力の大きさを知った。
▽試合はハリルホジッチ監督のプラン通り、俊足の浅野を起用して3BKの左サイドを狙った攻撃と、オーストラリアのポゼッションサッカーによるビルドアップを封じるため井手口と山口の起用がズバリ的中。浅野と井手口というリオ五輪代表だった若い2のゴールでオーストラリアを撃破した。
▽オーストラリアは昨年10月の対戦時も、ポステゴグルー監督はハイクロスによる攻撃からポゼッションサッカーにスタイルを変えていることを強調した。そのためハリルホジッチ監督はリトリートしてパスコースを消しつつ、インターセプトからのカウンターを狙い、原口が先制点を奪った。
▽そしてホームでの試合は、デュエルとインテンシティで勝負できる選手を起用し、さらにカウンター狙いを徹底。ミドルサードからボールを奪いに行くアグレッシブな姿勢を貫いた。恐らく今後もハリルホジッチ監督が日本代表の指揮を執るなら、W杯で目指すのは、かつてボルシア・ドルトムント時代にユルゲン・クロップ監督が採用した「ゲーゲンプレス」ということになるだろう。
▽といったところで、昨夜の試合で感服したのは、オーストラリアが徹底してポゼッションサッカーにこだわったことだ。それまでのオーストラリアは4-2-3-1や4-4-2からのポゼッションサッカーだったが、コンフェデ杯では3-4-3にシステムを変更し、より攻撃的なサッカーを目指している。
▽そうした障害がありながらも、オーストラリアは自分たちのスタイルを貫徹した。日本のゴール前に攻め込んでも簡単にクロスは上げず、ポジションチェンジしながらワンツーによるリターンパスで突破を図った。迂闊に対応するとPKを取られるリスクもある攻撃だ。
▽そしてリードを許した後半は、サイドからのクロスで日本ゴールを脅かしたものの、クロスは日本が弱点とする空中戦ではなく、低くて速いクロスが多かった。それはエースのユリッチやケーヒルが交代出場しても変わらなかった。
▽試合後に空中戦に強い2人を投入しながら「パワープレーではなくポゼッションサッカーにこだわった理由」を質問されると、ポステゴグルー監督は「そういうサッカー(ポゼッション)をしたいからだ。このフィロソフィー(哲学)で結果を出したい」と胸を張って答えていた。
▽ポステゴグルー監督が言うとおり、ポゼッションサッカーにこだわるのはわかる。おそらく1点差なら、終盤はパワープレーに出たかもしれない。しかし2点差だったためポゼッションサッカーを貫いたのだろう。
▽日本にとっては、ドイツW杯でパワープレーの連続から3DFが体力を消耗してケーヒルにゴールを許した苦い経験がある。にもかかわらず、ここ数年のオーストラリアは、ポステコグルー監督はポゼッションサッカーに強いこだわりを見せ、大一番の日本戦でもその姿勢は変えなかった。
▽オーストラリアは、オセアニアやアジアではフィジカル勝負で圧倒できる。しかしW杯でヨーロッパや南米、アフリカ勢と対戦したら、アジアではアドバンテージであるフィジカルは通用しない。そのためのポゼッションサッカーだが、ポステゴグルー監督の目指すところは、まだ“道半ば”といったところだろう。
▽そういった意味では、ザッケローニ元監督でポゼッションサッカーにより一つの形を作り、ハリルホジッチ監督でショートカウンターのスタイルを目指している日本は、オーストラリアより半歩先を歩いているかもしれない。
▽しかし今回、ポステコグルー監督が勝敗にかかわらずポゼッションサッカーを追求したことで、彼らがW杯に出場できるかどうかは別にして不安も感じた。このままポゼッションサッカーを追求して、日本と同レベルに達したら、空中戦やフィジカルでのアドバンテージがあるだけに、アジアで最強のチームになる可能性があるからだ。
▽レーハーゲルからポステゴグルーと自国リーグで結果を出した監督に指揮官を代え、独自のスタイルを構築しつつあるオーストラリア。今後もアジアでは韓国やイランと並び日本のライバルとなることは間違いないだろう。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
▽試合はハリルホジッチ監督のプラン通り、俊足の浅野を起用して3BKの左サイドを狙った攻撃と、オーストラリアのポゼッションサッカーによるビルドアップを封じるため井手口と山口の起用がズバリ的中。浅野と井手口というリオ五輪代表だった若い2のゴールでオーストラリアを撃破した。
▽そしてホームでの試合は、デュエルとインテンシティで勝負できる選手を起用し、さらにカウンター狙いを徹底。ミドルサードからボールを奪いに行くアグレッシブな姿勢を貫いた。恐らく今後もハリルホジッチ監督が日本代表の指揮を執るなら、W杯で目指すのは、かつてボルシア・ドルトムント時代にユルゲン・クロップ監督が採用した「ゲーゲンプレス」ということになるだろう。
▽といったところで、昨夜の試合で感服したのは、オーストラリアが徹底してポゼッションサッカーにこだわったことだ。それまでのオーストラリアは4-2-3-1や4-4-2からのポゼッションサッカーだったが、コンフェデ杯では3-4-3にシステムを変更し、より攻撃的なサッカーを目指している。
▽これは余談だが、試合後のポステゴグルー監督は「ピッチ中央がスリッピーで、中央のエリアを支配することができなかった」と振り返った。昨日はピッチ全体を機械で散水した後に、さらにセンターサークル付近を中心に、ボンベを背負った係員が入念に散水していた。これもオーストラリアのビルドアップを想定して、よりスリッピーにすることでパスサッカーを封じにかかるハリルホジッチ監督の作戦だったのだろう。
▽そうした障害がありながらも、オーストラリアは自分たちのスタイルを貫徹した。日本のゴール前に攻め込んでも簡単にクロスは上げず、ポジションチェンジしながらワンツーによるリターンパスで突破を図った。迂闊に対応するとPKを取られるリスクもある攻撃だ。
▽そしてリードを許した後半は、サイドからのクロスで日本ゴールを脅かしたものの、クロスは日本が弱点とする空中戦ではなく、低くて速いクロスが多かった。それはエースのユリッチやケーヒルが交代出場しても変わらなかった。
▽試合後に空中戦に強い2人を投入しながら「パワープレーではなくポゼッションサッカーにこだわった理由」を質問されると、ポステゴグルー監督は「そういうサッカー(ポゼッション)をしたいからだ。このフィロソフィー(哲学)で結果を出したい」と胸を張って答えていた。
▽ポステゴグルー監督が言うとおり、ポゼッションサッカーにこだわるのはわかる。おそらく1点差なら、終盤はパワープレーに出たかもしれない。しかし2点差だったためポゼッションサッカーを貫いたのだろう。
▽日本にとっては、ドイツW杯でパワープレーの連続から3DFが体力を消耗してケーヒルにゴールを許した苦い経験がある。にもかかわらず、ここ数年のオーストラリアは、ポステコグルー監督はポゼッションサッカーに強いこだわりを見せ、大一番の日本戦でもその姿勢は変えなかった。
▽オーストラリアは、オセアニアやアジアではフィジカル勝負で圧倒できる。しかしW杯でヨーロッパや南米、アフリカ勢と対戦したら、アジアではアドバンテージであるフィジカルは通用しない。そのためのポゼッションサッカーだが、ポステゴグルー監督の目指すところは、まだ“道半ば”といったところだろう。
▽そういった意味では、ザッケローニ元監督でポゼッションサッカーにより一つの形を作り、ハリルホジッチ監督でショートカウンターのスタイルを目指している日本は、オーストラリアより半歩先を歩いているかもしれない。
▽しかし今回、ポステコグルー監督が勝敗にかかわらずポゼッションサッカーを追求したことで、彼らがW杯に出場できるかどうかは別にして不安も感じた。このままポゼッションサッカーを追求して、日本と同レベルに達したら、空中戦やフィジカルでのアドバンテージがあるだけに、アジアで最強のチームになる可能性があるからだ。
▽レーハーゲルからポステゴグルーと自国リーグで結果を出した監督に指揮官を代え、独自のスタイルを構築しつつあるオーストラリア。今後もアジアでは韓国やイランと並び日本のライバルとなることは間違いないだろう。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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