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【東本貢司のFCUK!】土壌の差、性格の差2017.01.21 13:49 Sat

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▽果たして「名将」とは何か、その条件とは? 俗に「名プレーヤー、名将ならず」という言葉がある。例えば、フィールドの“鬼将軍”ドゥンガとロイ・キーンは名将たり得なかった。現役時代、ピッチ上であれほどチームメイトが委縮してしまわないかと心配になるほど吼え、怒鳴りつけては叱咤激励し、傍目にはそれが勝利のメンタリティーを増幅したように見えたとしても、おそらくそれは、怒鳴りつけられた相手に才と力があってこそだった。我々は、ヨハン・クライフがバルセロナで何を成したのかは知っていても、勝てないチームを勝てるようにしたのか、そのために彼が何を“変えた”のかと振り返ると、はたと答えに窮してしまうだろう。ごく普通の(知識先行の)ファン(および一部評論家すら)、「名将」といわれてすぐに指を数える名前を冷静に分析してみれば、ほぼ100%、そのチームには、優勝して何ら不思議ではないスターが揃っていたことに気が付くはずだ。

▽だとしても、あえて「考え得る名将の条件」を思いつくままランダムに数え上げてみようか。まず「実績」は不可欠だ。それも「ありそうにない“土壌”から引き出して見せた実績」が。アレックス・ファーガソンは、辺境の弱小アバディーンを率いてグラスゴウ二大巨象の天下を打ち破って名を上げた。ジョゼ・モウリーニョの場合、多分誰でも「ポルトにトレブル制覇をもたらして・・・・」と話し出すだろうが、彼の「ありそうにない土壌」は、プレーヤーとしても指導者としてもほぼ無に等しいバックグラウンドを有していたことに尽きる。「どこの誰なんだ、この聞いたこともないポルトガル人の若僧は?」。そう、アーセン・ヴェンゲルだってそうだった。彼がアーセナルに舞い降りたそのとき、プロもアマチュアも、老いも若きも、コアなファンも一般人すらも、こぞって鼻で笑いながら首を傾げた。「アーセン・・・・誰?」。少なくとも当時の(いや多分、今も)極東の小さな、プロ化なって間もない国の「天皇杯」とかの価値どころか、名称すら覚束なかった時代なら。

▽その辺りから引き出してみるとすると、第二の条件は「器」ということになろうか。ファーガソン、モウリーニョ、ヴェンゲル、そして多分クライフには、「名将足り得る器」があった。そこには、その器を“事前に”見抜いて登用、抜擢する誰かがいなければならなかった。ファーガソンにはボビー・チャールトン、ヴェンゲルには当時アーセナルの服チェアマン、ディヴィッド・ディーンがいた。チャールトンには、アフリカを中心に比較的後進のフットボール世界での豊富な見聞の蓄積があり、ディーンにはマニアックで近未来的フットボール観を発散する無名のフランス人に感銘するすばらしき直感が、あった。モウリーニョの場合はいささか逆説的だが、通訳身分でボビー・ロブソンのそばを片時も離れず、その、悪童ガスコインでさえ首を垂れるほどの計り知れない包容力とカリズマに打たれ、学び取ったものを自己流に法則化した。以上の分析はあくまでも筆者の“穿った要旨”だが、当たらずとも遠からずと少しは胸を張りたい。ストーリーは必ず存在するのだ。

▽つい先日、もはやプレミア降格争いが定着したサンダランドのデイヴィッド・モイーズは「この(1月の)移籍ウィンドウでどれだけ補強できたところで、事態が劇的に好転するとはとても思えない。そもそも、それだけの資金もない」と厭世的弱音を吐いた。その通りだろう。ただし、一年前もほぼ同じ苦境に立っていたサンダランドが、2月以降、怒涛の反攻で残留を果たしたとき、助っ人マネージャーとして到来したサム・アラダイスが何をしたのかも忘れるわけにはいかない。アラダイスは悠々と、その反攻の直接の原資となった、しかも無名に等しい異邦の助っ人(ヤン・キルチョフ、ラミーン・コネ、ワハビ・ハズリ)を発掘補強し、最低限の仕事を成功させた。そう、何も名の知れた出来合いの大物を連れてくるだけが能ではない。おそらくは「見聞」と「直感」、そしてビッグ・サムならではの「思い切り」も作用したのではなかったか。せっかくのイングランド代表監督職を棒に振るほどの「おおらかな脇の甘さ」の所以・・・・それもまた、一つの「器」である。

▽アラダイスもモイーズも、少なくともトップフライトでの優勝経験はない。だとすれば両名の差は、やはり性格の差。あえて言うならば、後者のユナイテッドとスペインで失敗を続けた負い目からくる生真面目な重さと、前者の「ま、しゃあないわな」と笑い飛ばしてしまえるほどの腰の軽さ。お忘れなきよう。ビッグ・サムはああ見えても戦術志向にけっこう辛く、グアルディオラ並とはいかずともプレーヤー管理の手綱さばきも辛いことで、知る人ぞ知る存在なのだ。どこか中途半端な印象を与えるモイーズの“正統志向”では、どこまで行っても付け焼き刃的梃入れしか望めそうにない。多分、彼自身、それに気づいている。だから、哀しきかな「少々補強できたとしても大きな違いは生まれそうにない」のだろう。もっとも、今回、アラダイスがクリスタル・パレスで同等の魔法を行使できるかどうかは神のみぞ知る。それは、モイーズほどくよくよ考え込まないタチで、アラダイスほどは呑気を気取れるとは思えない、クラウディオ・ラニエリにも同じ事が言えそうだ。

▽ただ、レスターにはチャンピオンズ参入のおかげで少しは(少しどころじゃない?)カネがあるし、わずかながらサンダランドやパレスよりは立場に余裕がある。おそらくラニエリはすでに来シーズンを見越しているはず。それに、少なくともリーガで今、のし始めているセヴィージャと2試合できる余禄もある。ひょっとしたら“次”もあるかもしれない。失いそうなものよりも得るもの、いや、楽しめるものの方がはるかに多い。痩せても枯れてもプレミアのディフェンディングチャンピオン、腐っても鯛のオーラはさすがに捨てたものじゃない、というべきか。ところで、チャンピオンシップ(イングランド2部)では早、ニューカッスルとブライトンの一騎打ち模様。よほどのアクシデントでもない限り、いいや、3位以下の一進一退状況とを見れば、この2チームが来季のプレミアに上がってくる確率はかなり高いだろう。おや、その3位にリーズがいる。こちらこそまだまだ予断は許さないとはいえ、プレーオフ経由でやっとこさヨークシャーきっての名門の復活があるかもしれない。プレミア優勝争いよりもこちらの方が、より手に汗握ってしまいそう?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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