【東本貢司のFCUK!】お楽しみはこれからだ2016.09.16 13:15 Fri

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▽ざっと8、9か月前のこと―――年の変わり目にほんの“一瞬”首位に立ったアーセナルがその地位をレスターに奪還され、あろうことか宿敵スパーズにまで追い抜かれた頃、ある知人がこう宣った。「このチャンスを逸したら向こう100年経ってもめぐってこないだろうから、レスターかスパーズにタイトルを獲ってもらってもいい気分になっている」さてこの知人、他でもない超のつくガナーズサポーターが、である。そこには一抹の負け惜しみにも似た“寛容”の匂いを感じ取ったものだった。そして結末は、多分「アーセナル命」の狂おしい心情に最も“寛容”な形に収斂した。レスターの歴史的優勝と、最後の最後で足並みを乱したスパーズを逆転しての2位。だが、彼とその故国のプレミアファンとの温度差にさほどのものはなかったに違いないとしても、“母国”の識者や通の者たちですら、レスターの快挙を「歴史的=一時の奇跡」として扱う素振りしか見せなかった。

▽つまり“奇跡のチーム”レスターの連覇、その可能性は限りなくゼロである、と。その目に見える根拠はと言えば、カンテを失ったことと・・・・いや、それだけにもかかわらず! 彼らの目は、「現代最高」の誉を引っ提げて乗り込んできたグアルディオラと帰ってきたモウリーニョの「一騎打ち」に奪われ、世紀の「口の減らない」尊大なストライカーと新・世界最高額の出戻りプレーヤーのコラボに奪われ続けた。アーセナルも、スパーズも、もちろんレスターも、所詮は露払い役、もしくはそのまた下である、と。ある程度はやむをえまい。かのブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの時代とは、何もかもが隔世そのものの今、奇跡が持続する余地はほとんど考えられない。その予兆よろしく、コミュニティーシールドでユナイテッドに敗れたのはともかく、シーズン緒戦で昇格ハルに屈し、対アーセナル・ドロー、ようやくスウォンジーを一蹴した初勝利を挟んで、リヴァプールに大敗・・・・。それ見たことか、奇跡は奇跡、それ以上の何ものでもない・・・・。

▽さて、知る人ぞ知る「クラフのボトル」―――常にほろ酔い気分の怖いもの知らずのクソ度胸で知られたブライアン・クラフの“裏呼称”) ―――が、何があろうと微動だにしないクラウディオ・ラニエリに(若干姿を変えて)乗り移ってはいないか、と夢見る愚か者は筆者だけなのだろうか。ヴァーディーが「心の声」に感じ、ドリンクウォーター、マーレズがふとした誘惑から踏みとどまった事実が、レスターのアンダードッグ魂に再び火をつけたと考えるのはそれほど浅はかだろうか。キーワードは「クラフ」、そして夢の舞台は―――チャンピオンズリーグだ。奇跡の新たな再現の芽はすぐそこにある! かくして、レスター・シティーの記念すべきチャンピオンズ初挑戦は快勝で火ぶたを切った。相手がどうのという話はきっぱり却下する。というより、これはプレミア王者としての特権、勲章である。それをきっちり勝ち切ったことがすべて。つまり、ここ(チャンピオンズ第一戦)でたたらを踏むようなことがあればとの危惧を吹き飛ばしてくれたことが大事なのだ。

▽まだ始まったばかりじゃないか、という声はあえて聞き流す。要するに、レスターが新たな奇跡の風を吹かせ、単なる“寛容”では片づけられない何かを有無を言わせず打ち立てること―――それが、プレミアはもちろん、ヨーロッパ全体をひっくるめたプロフットボールの正しい隆盛に貢献すると思うからだ。さて皆さん、チャンピオンズをどう評価するか。とんでもない高給取りの世界的スーパースターたちで目のくらむようなクラブが、いつまでたっても上位/優勝争いを独占し続ける昨今の現状が、はたして真に健全と言えるのだろうか。つまり、これは格差是正とは対極にある寡占の世界。チャンピオンズ上位常連だけが莫大な見返りを享受し、それによってさらに高給でスーパースター(ないしはその候補)を独占的に駆り集めることができる、いびつなカルテル、無国籍超大企業のやりたい放題。ならばどうだ、今季第一節の結果を眺め渡したとき、これは何か大暴れしてくれそうな予感をもたらしたチームは、どう見てもレスターしか目に映らないではないか?

▽そもそも、いっとき何かの間違い(?)で頂点に立ったからこそ「アンダードッグ」なのである。しばらく、あと一歩なり二歩なりそれ以下なりに冴えない結果だろうと、常に優勝候補に数えられるレアル、バルサ、ユヴェントスのような“永遠の格”を築いていないチームだからこそ、反響も影響力も大きい。こう考えればいい。一時は世界のトップに君臨し続けながら今やすっかり地に堕ちた感のあるアヤックス。そんなアヤックスですら、いずれチャンピオンズに返り咲いた日には“昔の名前”の威力で必ずや注目の的になるだろう。ときの戦力次第だとしても優勝候補に数えられても不思議ではない。しかし、レスターはその立ち位置がまるで違う。今後、例えば10年や20年、プレミアで他を圧してタイトルを積み上げていって初めて、末席仲間入りの資格を与えられるかもしれない程度なのだ。つまりは、長いシーズン中、一試合の勝ち負けに(ファンか否かを超越して!)一喜一憂する“究極の楽しみ”をもたらしてくれる、そんなレスターが、新たな歴史の一ページを開いた今こそ贈る言葉、それは「お楽しみはこれからだ、You ain't impressed yet!」

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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【東本貢司のFCUK!】見えてきた“サウスゲイト式”

▽オランダがブルガリアに敗れた以外は平穏なW杯ヨーロッパ予選だった。実力伯仲のアイルランド-ウェールズのドローも“順当”、北アイルランドには底力が備わってきた。崖っぷち寸前のスコットランドは、終了間際の決勝ゴールで望みをつなぎ、その勝利はイングランドの後押しにもなった。ハイライトといえば、やはりそのイングランド。約3年半ぶりに代表復帰したジャーメイン・デフォーが話題をさらった。ハリー・ケインの負傷欠場さまさまだったとしても、きっちり先制ゴールをたたき出した事実は、ニューズネタとしても大きい。ポドルスキの“独り舞台”が既定路線だった対ドイツ・フレンドリーも、特に悲観すべき点は見当たらなかった。予選は順調でも本番でコケる最近の悪いクセを考えれば、楽観も悲観もないところだが、ギャレス・サウスゲイトの更迭論が出る余地もないだけで良しとすべきだろう。そのうえで、今後の課題についていくつか気になることを。 ▽現実的ではないという見方もあろうが、サウスゲイト・イングランドはこの対リトアニア勝利の余韻を大切にしていくべきだと思う。実績、経験、その他の“ありきたり”な尺度にあえてこだわらず、この布陣を基本路線に定めていくということだ。大筋はほぼ見えてきている。司令塔アリ、エースチャンスメイカーはララーナ、守りの軸はストーンズ。アンカーのダイアーについては、前回ユーロから個人的に物足りない部分も感じるが、穴になるというわけでもない。スターリングもパフォーマンスが安定してきて戦力としての“独り立ち”が見込める。両サイドバックはウォーカー(右)がマストになるが、オプションは豊富。ディフェンス面に不安が残るショーは、ドイツ戦でとった3バックシステムのウィングバックに使う方が生きそうだ。つまり「Bプラン要員」。中盤を5人で組む場合、底にダイアー、中央にアリとバークリー(格下で守備的な相手ならオクスレイド=チェンバレンなど)、両ワイドにララーナとスターリング。トップはケインでヴァーディーとデフォーがサブ、もしくは状況次第でいずれかがケインのパートナーに。ではルーニーは? ▽それは後回しにして、一番の考えどころがディフェンスセンター。ここほどパートナーシップが要なところもない。とっかえひっかえではサマにならない。やはり、最後はジャギエルカの経験に頼ることになるのか・・・・? とりあえず現状での「理想論」を。まず、めっきりグアルディオラの信頼を勝ち取りつつあるストーンズを軸とする。相方には心境著しいマイケル・キーン。この、若いコンビを主戦と位置付ける。ジャギエルカはいざというときの“最後の砦”として(相手次第で)起用する。あえてダメもとという言い方をするが、こうした方が先の希望が開けるはず。つまり、思い切って若返りの早期実現を“謳う”のだ。筆者はこの“謳う”メッセージこそ、スリーライオンズ復活の真の決め手になると信じている。いわば、オープン・セサミ、開けゴマ。そして、サウスゲイト自身もきっと同じことを考えていると思う。アンダーエイジで好成績を上げてきた彼だからこその説得力もある。というか、それこそがサウスゲイト指名の最大の根拠に違いないからだ。 ▽そこで、ルーニー。サウスゲイトは「まだやれる、必要」と言い切っている。そのココロ、もしくは“条件”は(おそらく)こうだ。「あまり動きすぎるな」。ルーニーが(クラブでも代表でも)しっくりこなくなっている理由は、彼自ら役割の多様性をもたらしている諸刃の剣。そもそもがストライカー由来なのに、妙に責任感が強いせいで、あれもこれも自分が、という逸る気持ちが出すぎて、かえってチームプレーをぎくしゃくさせている。モウリーニョが使い辛くなっているのもその点にあるはず。どんと構えればいい。トップ下に入ればディフェンスは他に任せる、引いた位置ならそれこそ周りの回転軸になるポジションを死守する。本人が納得するかどうかだが、筆者はあえてアンカーに固定してみてはどうかと考えている。つまり、ダイアーの代わりだ(その場合、ダイアーはセンターバックに使える)。攻撃の組み立て、お膳立てはアリとバークリーに託して、むやみにファイナルサードには立ち入らないと肝に銘じるのだ。ひょっとしたら、このルーニーの“世紀の決断”こそが、イングランドが世界の頂点に挑戦するためのキモではないだろうか。 ▽総体的にぐっと若返り、ぐっと肝が据わって“動かない”ルーニーが名実ともに柱石の姿勢を堅持すれば、きっと相手は勝手が違って面食らう。むろん、そのための十分な練習とコミュニケーションは欠かせないが、こういうチームが淀みなく一丸となり、あらゆる状況に対処できるようになれば、けっこう「負けないチーム」になっていく気がする。その点、参考にすべきなのが最近の北アイルランドだ。“国際的知名度”は薄くとも、どこか得体のしれない粒ぞろいの印象と、実際に当たってみて歯ごたえの凄さで、徐々に主導権をもぎ取っていく。劣勢になっても、さして変わらず黙々とかかってくる。これもまた、強力なメッセージになるだろう。ユーロで対戦したチームは総じてそれを痛感したのではなかったか。言うまでもなく、上記にざっと組んでみた“新生”スリーライオンズには、北アイルランドよりもずっと才能の前提があるはずだ。そして、サウスゲイトは必ずやその線に基づいてチーム改造(→醸成)を目論んでいるに違いない。楽しみになってきた。<hr>【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.03.27 11:53 Mon
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【東本貢司のFCUK!】クラブレジェンドの“貫目”

▽ンゴロ・カンテについて、フランク・ランパードが「現役世界最高のミッドフィールダー」だと言ったらしい。納得するファンも多かろう、少なくとも「当たらずとも遠からず」といったところだろう。しかし、ちょっと待った。カンテがもしチェルシーのプレーヤーじゃなかったら? ランパードがわざわざそこまで声を上げて褒めちぎっただろうか。素直な感想にケチをつけるつもりは毛頭ないが、ひいき目の要素は押さえておくべきではないか。なぜなら、先のFAカップ戦でスタンフォード・ブリッジのファンがジョゼ・モウリーニョに対して冷やかし/侮蔑的なやじを飛ばした事実に思い至るからだ。二度の解任の際の後味の悪さや“口の悪さ”という瑕疵(?)は確かにあるにしろ、モウリーニョはチェルシーが果たした1部優勝5回のうち3つに導いた、史上最高の指導者ではないか。どうせならランパードもそのことに触れて「哀しい」とくらいは言ってほしかったが・・・・・。 ▽実際に、その“哀しみ”を口にした人物がいる。モウリーニョ・チェルシー時代に副官を任じたこともあり、クラブ史に名を残すレジェンドの一人、レイ・ウィルキンズだ。付け加えておくと、ウィルキンズは80年代のイングランド代表でキャプテンを務めたトッププレーヤーであり、そのうえ他ならぬマンチェスター・ユナイテッドに籍を置いていたこともある。彼曰く「チェルシーを最も輝かせてくれた男にそんな仕打ちをするとは恥ずかしい。もっと敬意を示すべきだろう」。そうなのだ。例えば、ジョージ・グレアム。ヴェンゲル到来の少し前、アーセナルに「ダブル」(リーグ&FAカップ)をもたらした名将に対し、リーズおよびスパーズの監督として彼がハイベリー(当時)に帰ってきたとき、ガナーズファンは万雷の拍手で迎えたものである。アーセナルから追われた理由が、北欧のプレーヤー2名獲得の際の「収賄(疑惑)」だったにもかかわらず。それは90年代に入ったばかりのことだった。まさか、チェルシーファンは忘れっぽいなんてことはあるまい? ▽それにひきかえ、レスターのサポーターは(まだ「間もない」とはいえ)ラニエリへの恩を熱く語り「哀しんで」いる。そこには決して、後を引き取ったクレイグ・シェイクスピアを腐す意味合いはなく、シェイクスピア自身もしっかりと敬意と“慕情”を隠さない。なぜ、ラニエリ解任後のレスターに快進撃が蘇ったのか。短絡な脳は「だから、ラニエリがダメだったってことだろう」と片付けるかもしれないが、それはまったく逆だ。ラニエリを去らせてしまった責任を感じて、シュマイケル、ヴァーディー以下が奮起したのであり、何よりもシェイクスピアが昨シーズン花開いた“ラニエリ流”の原点に戻った采配に徹しているからだ。間違っても、アーセナルをねじ伏せたリヴァプールが「不調」だったとは言わせない。レッズもハルも気圧されたのだ、レスター・イレヴンのラニエリに捧ぐ“回帰”の熱気と気迫に。セヴィージャも間の悪いときに乗り込んできたものである。ひょっとしたら「ラニエリ監督のままだったらよかったのに」と嘆いているかもしれない? ▽昨シーズンとはまるで人が変わったように、凡プレーを連発していたドリンクウォーターとフークスが、なぜか“直後”のリヴァプール戦から“復活”した。カンテの抜けた穴をまったく感じさせない、全軍躍動のオールコート・ディフェンスがさく裂する。急に得点感覚を取り戻したヴァーディーには“(移籍)価格”高騰の噂すら飛び交っている。ならば、なぜそれが“息をひそめて”いたのか。そう、彼らは予想外のチャンピオンになってしまった“重荷”に、奇妙な“とってつけのプライド”を身にまとおうとしたのではなかったか。恥ずかしいゲームはできない、相手は目の敵にして立ち向かってくるだろう、そのためには何かプラスαがなければ・・・・とか何とかの強迫観念に(無意識のうちに)とらわれていたのだろう。それが証拠に、チャンピオンズでは無心に「自分たちのプレーができて」(おや? どこかで聞いたセリフ)悠々と勝ち進んできたではないか。言葉は悪いが「負けてもともと」の肩の力が抜けた彼らの本領が“初体験の土俵”で生きたのだろう。 ▽だからこそ、ブッフォンは真っ先に「一番当たりたくないチーム」とレスター警戒を口にした。少しはプレミアを知るアンチェロッティも遠からずの気持ちかもしれない。奇跡の逆転劇の直後、まさかの対デポルティーヴォ敗戦に肩を落としているはずのルイス・エンリケには、レスターの「レ」の字も関係ないか。逆に、レスターが一番避けたい相手はモナコかもしれない。モナコにもプレッシャーに(良い意味で)鈍感なあっけらかんさを感じる(のは筆者だけ?)からだ。それを言えば、嗚呼、堅調に戻ったはずのシティーの不甲斐なさよ。あんな、マークの甘さでホームのモナコを黙らせることができると思ったのだろうか。グアルディオラもさぞやため息を・・・・その一方で、内心、あの“かっ飛び”核弾頭のムバッペをマジで獲りにいこうか、などと考えているかもしれない。おっと待った、せっかく、クラブレジェンド・アンリの「再来」といわれるからにはアーセナルに行ってもらわないとね。それがヴェンゲル続投のまたとない説得力になるやもしれないし・・・・!<hr>【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.03.16 11:15 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ヴェンゲル放逐の大いなる罪

▽数字は正直だ。確かに、アウェイのファーストレッグと寸分違わない最終スコアは屈辱的だろう。だが、その(合計)「2-10」の“字面”にとらわれすぎてはいないか? 一部の“比較的まともな”メディアは、同点ゴール(レヴァンドフスキのPK)が決まった直後から、アーセナルイレヴンの戦意がみるみる萎んでいった結果、「17分間」に立て続けに4ゴールを失ったと“分析”している。要するに、ガナーズの面々のプレーぶりは明らかに(哀しむべきことに)投げやりになってしまっていたということだ。さらに、ヴェンゲル自身「(それまでは)台頭以上に戦っていた」と述べ、敵将アンチェロッティもそれを認めている。ならば、この大敗の責任は誰でもない、プレーヤーたちにこそあるはずだ。ところが、メディアも、大半のアーセナル・フェイスフル(=忠実なサポーター)も、口を揃え、さも当然のように「ヴェンゲルのクビ」を声高に叫ぶ。批判や揚げ足取りが仕事のメディアはともかく、ファンまで即物的なシロウトよろしく“背を向ける”とは驚いた。 ▽百歩譲って、この期に及んでは「リフレッシュ」、もしくはある元プレーヤー曰く「クレンジング」つまり「洗い清める」ための、監督交代要望も一つの手ではあろう。たまたまにしろ(?)、ラニエリを切った直後のレスターが蘇ったかのように連勝を収めた事例を見たばかりでもある。嗚呼、しかし、なんと思慮の浅きことだろうか。たとえ、もしも仮にここでヴェンゲルにご退場いただき、誰が引き継ごうと(おそらく、暫定的にスティーヴ・ボウルド辺りになるのだろう)、そして残り10戦あまりのリーグ戦で“快進撃”を続け、唯一の希望となったFAカップを制してみせたところで、ではそのあとはどうする? アレグリ? まさかとは思うが、彼をコンテの“二番煎じ”と錯覚はしていまいか? 少々うんざりした気分で「探索」してみた。そしてやっと見つけた。「現実」を最も正しく理解していると思われる意見を。アーセナル・レイディーズ(アーセナル女子チーム)の前キャプテン、レイチェル・ヤンキー。「ヴェンゲルを切って、それで誰が? 誰をつれてくるというの? 彼以外にこの逆風を受けて立つことができる人がどこにいると? ▽そして、何よりの“証明”は他でもない、アーセナル・ディフェンス陣からの“叫び”、「すべては自分たちの落ち度。我々は全員、アーセンを今までと変わらず、信頼し支持している」。なぜ、彼らがそう主張するのか。これもたまたまだが、拙訳『インヴィンシブル~アーセナルの奇跡』を読めば、その意味がわかるはずだ(これ、決して本の宣伝ではありません、念のため)。アーセン・ヴェンゲルという人物が、いかに優れた異能の指導者、メンターなのかを、彼らは誰よりも肌身をもって知っているからだ。では、なぜあの2003-04シーズンを最後に、ヴェンゲルのアーセナルがリーグ優勝に届かないままでいるのか。ロマン・アブラモヴィッチの登場がリーグの地平をそっくり変えてしまったからだ。誤解のないように言っておこう。決して、ラニアリ(!)が、ジョゼ・モウリーニョが、アンチェロッティ(!)が、監督としてヴェンゲルよりも優れていたからではない。決して彼らの“戦術(論)”がヴェンゲルのそれよりも優れていたからでもない。この単純明快な事実がわからない(ふりをしている?)評論家やメディアは「ヘボ」である。 ▽と、ここまで書き進めて、ふと「どうなったかな」とニューズサイトを覗いてみると・・・・とんでもないドラマの結末が飛び込んできた。終了2分前(正規タイム)からの3得点でバルセロナ、奇跡的な逆転勝利! 大したものだが、パリSGのディフェンスも何やってんだかと思う一方で、これじゃアーセナルへの風当たりもさらに・・・・? いいや、むしろ現実がもっとあからさまに明白になったと考えたい。先制点がスアレス、崖っぷちからの起死回生の2ゴール(うち1点はPK)がネイマール。いざとなった局面で“不可能”を何とか可能にしてしまう、名前も実績も、そして何より動いたカネも桁違いのプレーヤーの(それも複数の)存在・・・・。ヴェンゲルがそのポリシーにおいて決して良しとしない、出来上がった大物プレーヤーの大挙補強が、やはり最後にモノを言う“味気ない”時代。なるほど、グアルディオラがメッシを喉から手の出るほど欲しがるはずだ、ユナイテッドがロナウドを買い戻したくなるはず、それらをチェルシーが虎視眈々横取りを狙うはず? ▽だが、そんな阿漕な“物量作戦”がいつまでもまかり通っていいはずがない。もうお忘れか。“手作りミラクル”レスターの快挙をもろ手で喧伝した大はしゃぎぶりを、アカデミー上がり主体で長く牙城を守り抜いたファーギー・ユナイテッド、そのハイライトとしてドイツ中の精鋭を揃えたバイエルン(!)を劇的にうっちゃってみせて果たしたトレブルのしびれるような快感を、0-3から大豪ミランをイスタンブールに葬ったリヴァプールの気骨を、ほぼ「未完」と「無名」で始まったヴェンゲル・アーセナルの歴史的“インヴィンシブル”をーーー。そう、チェルシー、シティーにレアル、バルサ、パリSGに倣ったカネ太りチームを作って、それでヨーロッパを制したところで何か誇れるものがあるだろうか。以前にも述べたように、名前が入れ替わってもおかしくも何ともないチームばかりがチャンピオンズの歴代覇者に名を連ねて、何が名誉か。そのためにも、アーセン・ヴェンゲルにはその信念と信義を貫いてもらいたい。願わくば引き続き・・・・エミレイツにて。<hr>【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.03.09 11:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ミラクル・レスター“異聞”

▽ロンドン在住の友人に聞いてみた。「ラニエリは“プレーヤーたちの造反”でクビになった」という一部報道についてどう思う? 信憑性はあるのか? 返事は「・・・・に違いない、ってところだろうな」。つまり、メディアは昨今の“症例”に照らし合わせて「その可能性が大だと決めつけている」ということらしい。真相は今も藪の中だ。が、友人の印象はほぼ的を射ていると思う。彼はさらに言い及ぶ。「(ジェイミー)カラガーは歩く(フットボールの)辞書かもしれないが、真実を見通す感性はスッカスカだ」。カラガーはあまりにもフェアな、言い換えれば、ありきたりで平均的な考え方しかできない、と彼は言う。友人はとりたててレスターの内情に詳しいわけでも何でもないが、ラニエリ解任直後のリヴァプール戦勝利だけを取り上げても、カラガーの「不器用な見立て」は成立しないと言う。「(信用できなくなった)監督がいなくなっただけで、人が変わったように強いチームに変身するはずがない。ヤツらは怒ったんだ、捨て身でね。それがあの快勝だったのさ」 ▽なぜかほっとした。その通りだと思う。そして、遠い異国にいながらも、友人の見解を後押しする“証拠”を並べることだってできる。リヴァプール戦で昨シーズンのフォームを取り戻したかに見えるヴァーディーは言った。「間違いだらけの風評にすごく傷ついた」シュマイケルも「(ヴァーディーと一緒にラニエリ追放を直訴したと囁かれて)冗談じゃないと思った」と反論した。何よりも、暫定で指揮を執ることになったクレイグ・シェイクスピアが「ドレッシングルームにもどこにもそんな(ラニアリを嫌う)雰囲気は一切なかった」と証言している。今更、彼らが嘘をつく理由などあるだろうか。すべては“自分たち”のせいだ、“自分たち”の不甲斐なさがラニエリをスケープゴートにしてしまった、このままおめおめと降格してしまおうものなら、それこそラニエリの業績と名誉を汚すことになる・・・・だから「捨て身」で怒りをプレーにぶつけた、それ以外に世間の「間違った悪意」を雪ぐすべはない。クロップ自身が嘆いたように、リヴァプールはそれこそ不甲斐ない試合ぶりだったが、おそらくそれもヴァーディー以下の怒りに気圧されたからだろう。 ▽出る杭は打たれる。それも“ミラクル”の看板付きの“ぽっと出”なら“打つ”勢いも半端じゃなくなる。今シーズンが始まった頃から、それは感じられた。“まぐれ”のチャンピオンならばこそ、さあて、どんな“化けのはがれ方”を見せてくれるんだろうか、どうせなら・・・・そう、筆者は密に心配していた。メディアの意地悪な“目論見”を、おいしい(かつ、ウキウキするような)ヘッドラインと特集記事の青写真を。プレミア始まって以来の「チャンピオン、一転して降格へ」。困ったものだ。およそあり得ない(はずの)成功を、羨み、嫉妬し、足の引っ張りどころばかりを探しつつ、目の敵にする人の世の習い。もし、優勝ではなく、準優勝もしくはチャンピオンズ参戦程度で収まっていたら、天晴あっぱれ、たとえ翌シーズンに失速しようとも、ずっとこの先も好意の目で包み込んであげたのに? リヴァプール戦快勝の直後、元アーセナルのマーティン・キーオンは、そんな虚しさを込めてか、逆説的な笑えないジョークをもらした。「これをクラウディオ(ラニエリ)がイタリアで見ていたら、テレビに飛び蹴りを食らわしたい気分になったかも」 ▽あえて、あえて前向きなとらえ方をしてみようか。ラニエリ解任は、あわよくばこうなることを願ってのショック療法だった。プレーヤーたちの憤りと反発を引き出そうと、ラニエリには悪いが、禁断の最後の手段に出た。それが裏目に出たなら、つまり、何も起こらなければ、降格もやむを得まい、それだけのチームだというだけのことだ、と。ならば、プレーヤーたちは、非情なクラブ上層部を見返すためにも、それ以上の結果を目指さねばなるまい。その最大の標的はもちろん、3月14日の対セヴィージャ・リーターンマッチ。彼らは心に誓っているに違いない。“その先”までもを。そして無言の直訴をつきつける。ホジソンだろうとマンチーニだろうとごめん被る、ラニエリの分身シェイクスピアとともに突き進むのみ。そして、あわよくば・・・・新たな“ミラクル”を歴史に刻むこまんことを。「ラニエリ、逆転の復帰」! しがない物書きの笑ってしまうような「夢」である。だが、考えれば考えるほど、どこも真似のできっこない、ミラクル・レスターにはお似合いの道筋ではないか。ギャリー・リネカーなら必ずや「よくぞ言った」と喝采してくれるだろう。<hr>【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.03.02 13:34 Thu
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【東本貢司のFCUK!】FCUKの夢、全開 ?!

▽苦境にあってもクラウディオ・ラニエリの頭は澄んでいる。むしろ、こうなることを予期して、あえて泥をかぶる心意気が透けて見える。セヴィージャの地に旅立つ直前、“ティンカーマン”はずっと胸の奥底に秘めてきた本音を告白した。「昨シーズン終了をもって辞任する道もあった」。その、ミラクルな“名声”を人々の記憶に押し付ける身勝手を良しとせず、必ずやってくる茨の道を選んだ“男気”を。だからこそ、チャンピオン転じて降格の危機に直面している最中にあっても、レスターは迷うことなくラニエリ支持を公言し、プレーヤーたちも望外の夢を見させてくれた恩義に報いて愚痴の一つも漏らさなかった。ここには、昨今の“目先の損得勘定”でやっつけの措置に走る(もしくは、それが当然とばかりにうるさく暴言をまき散らすファンやメディアに惑わされる)愚挙など、一切跳ね返す、クラブの意地、いや、本来の姿、ステイタスがある。ヴェンゲルのクビをしどけなく叫ぶファンの皮をかぶった似非ファンには爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだ。 ▽その意気に(「この対セヴィージャ・ファーストレッグが我々のターニングポイントになるかもしれない」と述べたラニエリの決意とメッセージに)、プレーヤーたちは応えてみせた。スコアは2-1、ゲーム単体では敗れたが、貴重な、この上なく値千金のアウェイゴールをもぎとってみせた。それも、今シーズンここまですっかり冴えを失っていたドリンクウォーターのスルーパスから、シンボルエースのヴァーディーが蘇ったようにシャープな身のこなしから決めた。あとは、どこぞの国で“ホワイトデイ”とか称する奇妙な習慣が男たちを戸惑わせる「3月14日」(のホーム、セカンドレッグ)まで、“彼ら”が何をどうして“身を証明する”かにかかっている。それで、レスターの明日も見えてくる。ひとまず、ラニエリの言う「ターニングポイント」は良き方向へと舵を切った。そもそも、はらはらドキドキ胸を騒がせるのが“ミラクル・レスター”の魅力、真骨頂ならば、これはもう筋書通り。大敵セヴィージャを少しなりともがっかりさせた意義は相当にデカい。 ▽その前日、苦闘の末にホーム・ファーストレッグを勝ちで収めたマンチェスター・シティーの方はどうか。反発しての5得点は褒めてしかるべき。だが、3失点のツケは小さくない。グアルディオラの表情も「次にこちらが得点できなければ、多分終わる」と冴えない、心細い。数字以上に、レスターのアウェイゴール1は、モナコのアウェイゴール3は、天と地の差ほどに見える。なかでも、蘇ったファルカオの2ゴール以上に、ムバッペの(その時点での)勝ち越しゴールは鮮烈なメッセージだった。キリアン・ムバッペ、18歳。そう、アーセン・ヴェンゲルが「ティエリー・アンリに似たところがある」と言い切った新星。モナコがヴェンゲルの“縄張り”だったからには、その将来性に注目しないではいられない。すなわち、ムバッペの将来は、アーセナルの今後の巻き返し(プレミアおよびチャンピオンズ)にも大きく左右されるはず。アンリを大成させたヴェンゲルか、それとも、パリSG、シティー、チェルシーの“カネ”か。ムバッペという青年の気質はいかほどなのだろうか。“それでも”ユナイテッドにこだわるマーシァルほどの気骨の持ち主なのか。 ▽そのマン・ユナイテッドはめっきり安定感を増してきた。負けない手応えは現状、おそらくチェルシーをも上回る。サンテティエンヌだろうと何だろうと、隙も抜け目もなく、さも当たり前のように退ける。ひとえに勝利の質と中身にこだわるモウリーニョに、悠々落ち着いたポストマッチコメントをものさせる。おまけに、このサンテティエンヌ撃退では、ファンにとってちょっとした希望をももたらす“瑕疵”をも引き連れてきた。ミヒタリアン(とキャリック)の故障だ。目前に控えたえEFLカップ決勝(対サウサンプトン)に、ルーニー起用の目が現実的になったこと。どこかひねくれたところのあるジョゼ君のことだ、先発で使うかどうかは少々怪しまねばならないが、ちょうど中国のCSL行きが取りざたされていた最中で、ルーニーを“引き留める”(といっても本人にその気はさらさらないが)恰好の口実にはなる。レスター同様、ルーニーにとっても、これは何かが変わるきっかけになりそうだ。チャンスは誰も文句がつけようのない形で生かさねばなるまい。スタンドで観戦していたサー・アレックスもひそかに「その証明」を望んでいるだろう。 ▽ここまでをまとめてみるならば、レスターは俄然昨シーズンの光を再び取り戻して残留を確保し、少なくともセヴィージャを撃退してみせる。ルーニーはウェンブリー(のEFL決勝)で、モウリーニョの信頼を取り戻し、ユナイテッドのキャプテンたる真のステイタス奪回に力強く再生する。“アンリの再来”ムバッペはアーセナル入団の夢を語り、いずれガナーズの一人としてプレミアにお目見えする。そういえば、FAカップ準々決勝でチェルシー-ユナイテッドの大一番があるんだっけ。これは大変な(いずれの優勝云々は関係なく)ゲームになる。願わくば、それまでに(時間はあまりないが)ルーニーが掛け替えのない存在として復活していますように。“何か”をさらに実り多きものにするためにも。いやはや、希望的観測ばかりで恐縮ながら、FCUKはすべてが“叶う”ことを祈らずにはいられない。あともう一つ、アーセナルの怒涛の追い込みとヴェンゲルの契約更新。まさかと苦笑する向きもあろうが、ここからあっと驚く(?)チャンピオンズ決勝へとひた走るガナーズの“快挙”にも夢を馳せたい。いや、できないはずはないと思うのだが?<hr>【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.02.23 12:54 Thu
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