【東本貢司のFCUK!】絵に描いた餅と“脱”カネ太り
2016.08.04 09:30 Thu
▽「GBチーム」が男女とも出場しないこともあるにはあるが、目前に開幕を控えたブラジル五輪にはどうも血が騒がない。理由の一端は開催地そのものが抱える問題に他ならない。一説にはブラジル国民の半数が、この期に及んでも開催に反対しているというし、2年前のワールドカップでも直前までニューズを騒がせた各種デモが、今回さらに激化しているとも伝えられる。選手宿舎にまつわる不祥事(窃盗事件、設備の不備など)も前代未聞の汚点。そこに輪をかけるような、ロシアの「国家ぐるみのドラッグ摂取事件」。思うにこの一連の暗雲は、昨今の世界政治経済を悩ませ続けている根源的課題と共通するものがないだろうか。行き過ぎたグローバリズム、グローバリゼイション。その昔、大国がくしゃみをすれば小国が風邪をひく、と言われたものだが、今やそんなジョークめいた表現では済まないのが現実。世界がともに手を組んで、という理想など絵に描いた餅も同然だろう。
▽もう少し視点を絞ってみよう。フットボール界で言えば、グローバリズムの絵に描いた餅とはまさしくホスト国の“開拓志向”そのものだろう。アフリカ(南アフリカ)に続いてロシア、中東(カタール)と、世界地図を埋めていくがごとくの八方美人ぶりは、上辺は崇高に映っても、現実が、時代がさっぱり追いついてくれそうにないのはもはや自明の理。もうとっくにわかってしかるべきなのだ。ワールドカップやオリンピックで潤う(もしくは、潤うだろうと期待できる)のは、開催統括機構と参入スポンサー企業だけなのであり、大げさな言い方をすれば、閉幕後の開催国(都市)に残されるのはそれまで以上に深刻な経済不況でしかない。この悩ましい問題をなんとか工夫をこらして乗り越え、吉(の種)としよう―――にも、おそらく復興などもはや及びもつかない世界経済の荒廃の前には太刀打ちできそうにない。せめて「コンパクトな」をその言葉通りに実行すれば救いもあろうが、どこかの国の“公約違反”とその醜いドタバタ劇を見る限り、まさに絵に描いた餅。
▽もっと端的に総括しよう。もはや新しいパイは作れない、既存のパイの拡大化、飾りつけすらできない(許されない)時代なのだ。持てる者の利益追求はそのまま持てない者の貧困拡大に反映される。いわゆるトリクルダウンなど到底望むべくもない。その一つの縮図がここにある。イングリッシュ・プレミアシップ、つまりプレミアリーグ。「法外」という言葉自らが呆れるような「超高給」で次々に一部のプレーヤーを釣り上げていく(というより、そうするしかない)ために、資金需要の高騰たるや天井知らず。よって、世界の限られた億万長者グループが引き寄せられ、また“彼ら”自身も「現代最高の堅実に儲かる投資物件」として喜々としていそいそと手を上げ、乗り込んでくる。それでも、ファンサービス中で一番大切な入場料は下がるどころか上がる一方であり、少しでも歳入を増やすべく、世界中の企業に広告主募集のお触れを出す。思いっきり意地の悪い見方をすれば、プレミアおよび一部他国のビッグクラブにカネが集まるシステムが出来上がっているのだ。
▽いや、そちらの方の“拡大化”は際限なく進んでいる。例えば、アストン・ヴィラの降格によって宿敵バーミンガムとウルヴズが久しぶりにチャンピオンシップ(2部)で同舟することになったが、なんとこの名門3クラブのいずれもが中国資本のバックアップに頼っている。中東の巨大資本(マン・シティー、バルサ、パリSGなど)ほど「湯水のごとく」となるかどうかはわからないが、“プレミアの美味しい水”目当ての予備軍クラブにすら、カネが吸い寄せられていく時代なのである。ちなみに、チャンピオンシップ事情に詳しい某現地識者の予測によると「このミッドランズ3大名門が来季のプレミア復帰を目指すにはまだ力不足。一番手は、数少ない国内資本で支えられているニューカッスル」だとか。多分、現時点での戦力比較によるきわめて真っ当な分析なのだろう。が、それでもなお、筆者にはこの識者の“強い願い”と反・行き過ぎた商業主義に対するメッセージを感じてしまうのだ。それはまた、ポグバの法外な移籍金に対する“幻滅”ともリンクしている。
▽最新のニューズによると“彼”はユーヴェ残留を希望しているという。あえて穿ちすぎな感想を言うなら、ポール・スコールズやアーセン・ヴェンゲルが眉をしかめる「それほどの価値はない」に、少々気が引けたのかもしれない。そんな“プレッシャー”を背負ってまで、かつて自分を捨てたクラブでプレーすることもない、と思ったのかもしれない。そこではたと嫌な発想が頭をよぎる。さて、EU脱退に踏み切った背景事情に、われ関せずと際限なく札束が乱れ飛ぶプレミアの“活況”は何らかの影響を及ぼしたのだろうか、と。それを考えると、もはや「ミラクル・レスター(の再現)」が世を騒がせることなどあり得ない? いいや、だからこそ「あって」欲しい。こんな時代だからこそ「カネで成功は買えない」を再び世に示してほしい。さて、そんな快挙を成しえるクラブがあるかと言えば・・・・そうだ、復帰したデイヴィッド・モイーズ率いるサンダランドなどいかがだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽もう少し視点を絞ってみよう。フットボール界で言えば、グローバリズムの絵に描いた餅とはまさしくホスト国の“開拓志向”そのものだろう。アフリカ(南アフリカ)に続いてロシア、中東(カタール)と、世界地図を埋めていくがごとくの八方美人ぶりは、上辺は崇高に映っても、現実が、時代がさっぱり追いついてくれそうにないのはもはや自明の理。もうとっくにわかってしかるべきなのだ。ワールドカップやオリンピックで潤う(もしくは、潤うだろうと期待できる)のは、開催統括機構と参入スポンサー企業だけなのであり、大げさな言い方をすれば、閉幕後の開催国(都市)に残されるのはそれまで以上に深刻な経済不況でしかない。この悩ましい問題をなんとか工夫をこらして乗り越え、吉(の種)としよう―――にも、おそらく復興などもはや及びもつかない世界経済の荒廃の前には太刀打ちできそうにない。せめて「コンパクトな」をその言葉通りに実行すれば救いもあろうが、どこかの国の“公約違反”とその醜いドタバタ劇を見る限り、まさに絵に描いた餅。
▽いや、そちらの方の“拡大化”は際限なく進んでいる。例えば、アストン・ヴィラの降格によって宿敵バーミンガムとウルヴズが久しぶりにチャンピオンシップ(2部)で同舟することになったが、なんとこの名門3クラブのいずれもが中国資本のバックアップに頼っている。中東の巨大資本(マン・シティー、バルサ、パリSGなど)ほど「湯水のごとく」となるかどうかはわからないが、“プレミアの美味しい水”目当ての予備軍クラブにすら、カネが吸い寄せられていく時代なのである。ちなみに、チャンピオンシップ事情に詳しい某現地識者の予測によると「このミッドランズ3大名門が来季のプレミア復帰を目指すにはまだ力不足。一番手は、数少ない国内資本で支えられているニューカッスル」だとか。多分、現時点での戦力比較によるきわめて真っ当な分析なのだろう。が、それでもなお、筆者にはこの識者の“強い願い”と反・行き過ぎた商業主義に対するメッセージを感じてしまうのだ。それはまた、ポグバの法外な移籍金に対する“幻滅”ともリンクしている。
▽最新のニューズによると“彼”はユーヴェ残留を希望しているという。あえて穿ちすぎな感想を言うなら、ポール・スコールズやアーセン・ヴェンゲルが眉をしかめる「それほどの価値はない」に、少々気が引けたのかもしれない。そんな“プレッシャー”を背負ってまで、かつて自分を捨てたクラブでプレーすることもない、と思ったのかもしれない。そこではたと嫌な発想が頭をよぎる。さて、EU脱退に踏み切った背景事情に、われ関せずと際限なく札束が乱れ飛ぶプレミアの“活況”は何らかの影響を及ぼしたのだろうか、と。それを考えると、もはや「ミラクル・レスター(の再現)」が世を騒がせることなどあり得ない? いいや、だからこそ「あって」欲しい。こんな時代だからこそ「カネで成功は買えない」を再び世に示してほしい。さて、そんな快挙を成しえるクラブがあるかと言えば・・・・そうだ、復帰したデイヴィッド・モイーズ率いるサンダランドなどいかがだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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