【東本貢司のFCUK!】超赤丸つきのホープ「バイラム」
2016.01.21 12:30 Thu
▽昨日20日、ウェスト・ハム・ユナイテッドはリーズ所属のサム・バイラム(本名:サミュエル・マーク・バイラム、1993年9月生まれの22歳と4年半の契約を結んだ。バイラムには今月半ばエヴァートンから正式なオファーが舞い込み、一時はリーズ側も了承したといわれていた(その後、メディカルチェックのためにグディソン・パークに入ったという報告もあった)。それが急転直下、ハマーズ入りとなったのは、バイラムの生地がロンドン西方のエセックス州であるということと、ハマーズの名物チェアマン、デイヴィッド・ゴールドの“鶴の一声”によるものだとされている。「It's now or never」つまり、バイラム獲得は「今しかない」と熱っぽいメッセージをメディアを通じて送ったのだ。昨年オフに一度はリーズから拒絶されていたゴールドにとって、このタイミングでエヴァートンにさらわれてしまえばもはや二度とチャンスはめぐってこないと、腹を決めたのだろう。
▽それにしても「サム・バイラム」の名前を聞いて戸惑う人も少なくなかろう。例えば、オーウェンやルーニーのような「何十年かに一人の逸材」というほどの評判が立っていたわけでもない。ポジションも右サイドバック、右ウィングバックでどちらかといえば地味なイメージ。リーズが下位ディヴィジョンで低迷してきたこともある。ただし、プロデビュー直後から確かな才能の片鱗をあらわし、毎年のように「年間最優秀賞」に選ばれ、もしくはその有力候補に挙げられ、プレミアの複数のクラブから熱い視線を注がれていたことも事実。実際、マンチェスター・シティーがいち早く、16歳当時のバイラム獲得に動いたこともある(たぶん、ロベルト・マンチーニ時代)。また、サウサンプトンにやってきて間もない頃のロナルト・クーマンも目ざとくリーズに交渉を仕掛けていたという。バイラムには、異邦の元名プレーヤーの琴線に触れる何かがあるのだという解釈もできそうだ。
▽わずかばかりの“映像資料”と経歴の“文脈”から判断すると、あるいは、歴代のリーズ監督(特に、ドイツ人ウーヴェ・レスラー)がバイラムをかなり恣意的に「アタッキングポジション」に据えてきたことからも、中盤の司令塔タイプとして大成しそうな気配がある。そんなことを考えていたとき、ふと思い出したのがスティーヴン・ジェラードである。ジェラードもリヴァプールのトップチームに上がってしばらくの間は、クラブでも代表でもワイドのポジションでプレーしていた。バイラムの身長はジャスト6フィート、つまり183センチ。近年はSBでも長身プレーヤーが増えてきてはいるとはいえ、直観的にバイラムの適性は、より前線に近い位置ではなかろうか。実は、エヴァートンのロベルト・マルティネスも、ゆくゆくはロス・バークリーの相棒として中盤底から前線で起用する目論見を持っていたとも噂されている。そして、ハマーズ現監督はスラヴェン・ビリッチだ。
▽すなわち、どうやらバイラムには“ヨーロッパでも通じる”懐の深さと伸びしろがある、少なくとも、歴戦の異邦の指導者の目にはそう映っている―――と考えていいのではないか。バイラム自身、ウェスト・ハム入りを選んだ最大の理由に、ゴールドの熱い心(バイラムも「そこまでぼくを欲しいと思ってくれているのなら」と感激したとか)ビリッチの存在を挙げている。バイラムの入団発表には(たぶん)ロンドン近郊在住でかねてより熱狂的なハマーズファンの叔父と従兄弟が駆けつけ(叔父はバイラムの名入りユニフォームを着てやってきたとか)、彼らは早くもウェスト・ハムが移転する新ホームスタジアムの前売りチケットまで手に入れているとも伝えられている。なお、バイラムがアカデミー時代から慣れ親しみ、恩もあるリーズを離れる決意をした一因には、現リーズの“お騒がせ”イタリア人オーナー、マッシモ・チェリーノにもあるらしい。つまり、将来を嘱望されているかけがえのないホープにもかかわらず、俸給ダウンの契約更改を申し出たこと!
▽さて、勝手な見立てで「若きジェラードを彷彿とさせる」ような物言いをしてみたが、ライトバックから攻撃的なウィングバックへとプレーの幅を広げてきたことと、長い距離を上がってチャンスメイカーとして活躍するスタイルからか、現地メディアは「ギャレス・ベイルの再来」というレッテルを貼りたがっているようだ。バランス上、バークリーとアリ(スパーズ)の存在と照らし合わせてみる限り、バイラムは「ベイル・タイプ」の方がふさわしいのかもしれない。よくよく考えてみると、若い頃のジェラードとベイルは、風貌の傾向も体形的にもよく似ている。さて、バイラムはどちらの“道”へと自らの将来を切り開いていくのだろうか。いずれにしても、近い将来のスリーライオンズに新たな期待株が登場したことだけは間違いない。ビリッチ率いるウェスト・ハムがチャンピオンズリーグ参戦となればさらに期待は膨らむ。サム・バイラム。この名前、是非覚えておこう。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽それにしても「サム・バイラム」の名前を聞いて戸惑う人も少なくなかろう。例えば、オーウェンやルーニーのような「何十年かに一人の逸材」というほどの評判が立っていたわけでもない。ポジションも右サイドバック、右ウィングバックでどちらかといえば地味なイメージ。リーズが下位ディヴィジョンで低迷してきたこともある。ただし、プロデビュー直後から確かな才能の片鱗をあらわし、毎年のように「年間最優秀賞」に選ばれ、もしくはその有力候補に挙げられ、プレミアの複数のクラブから熱い視線を注がれていたことも事実。実際、マンチェスター・シティーがいち早く、16歳当時のバイラム獲得に動いたこともある(たぶん、ロベルト・マンチーニ時代)。また、サウサンプトンにやってきて間もない頃のロナルト・クーマンも目ざとくリーズに交渉を仕掛けていたという。バイラムには、異邦の元名プレーヤーの琴線に触れる何かがあるのだという解釈もできそうだ。
▽すなわち、どうやらバイラムには“ヨーロッパでも通じる”懐の深さと伸びしろがある、少なくとも、歴戦の異邦の指導者の目にはそう映っている―――と考えていいのではないか。バイラム自身、ウェスト・ハム入りを選んだ最大の理由に、ゴールドの熱い心(バイラムも「そこまでぼくを欲しいと思ってくれているのなら」と感激したとか)ビリッチの存在を挙げている。バイラムの入団発表には(たぶん)ロンドン近郊在住でかねてより熱狂的なハマーズファンの叔父と従兄弟が駆けつけ(叔父はバイラムの名入りユニフォームを着てやってきたとか)、彼らは早くもウェスト・ハムが移転する新ホームスタジアムの前売りチケットまで手に入れているとも伝えられている。なお、バイラムがアカデミー時代から慣れ親しみ、恩もあるリーズを離れる決意をした一因には、現リーズの“お騒がせ”イタリア人オーナー、マッシモ・チェリーノにもあるらしい。つまり、将来を嘱望されているかけがえのないホープにもかかわらず、俸給ダウンの契約更改を申し出たこと!
▽さて、勝手な見立てで「若きジェラードを彷彿とさせる」ような物言いをしてみたが、ライトバックから攻撃的なウィングバックへとプレーの幅を広げてきたことと、長い距離を上がってチャンスメイカーとして活躍するスタイルからか、現地メディアは「ギャレス・ベイルの再来」というレッテルを貼りたがっているようだ。バランス上、バークリーとアリ(スパーズ)の存在と照らし合わせてみる限り、バイラムは「ベイル・タイプ」の方がふさわしいのかもしれない。よくよく考えてみると、若い頃のジェラードとベイルは、風貌の傾向も体形的にもよく似ている。さて、バイラムはどちらの“道”へと自らの将来を切り開いていくのだろうか。いずれにしても、近い将来のスリーライオンズに新たな期待株が登場したことだけは間違いない。ビリッチ率いるウェスト・ハムがチャンピオンズリーグ参戦となればさらに期待は膨らむ。サム・バイラム。この名前、是非覚えておこう。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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