【原ゆみこのマドリッド】上司が変われば気分も変わる…2016.01.09 08:00 Sat

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▽「いい時期ではあるわよね」そんな風に私が納得していたのは金曜日、いよいよジダン新監督の初戦が翌日に迫っているのに気づいた時のことでした。いやあ、今週は月曜にレアル・マドリーの指揮官交代があったため、こちらも何やらバタバタして過ごすことになったんですが、幸いだったのは彼らにはミッドウィークにコパ・デル・レイの試合がなかったこと。それも12月にカディス(2部B)との32強対決1stレグでチェリシェフのalineracion indebida(アリネラシオン・インデビダ/出場資格のない選手の起用)が発覚し、大会敗退となったせいですが、うっかり16強対決が予定されてでもいたら、新監督も落ち着いて準備を進める時間がなかったのでは?

▽おかげで日曜にバレンシア戦で引き分けた翌日夕方遅く、ベニテス監督の解任がクラブの理事会で決定。同時に後任監督としてジダンの名前が、ほんの3週間程前には「ベニテス監督はチームの問題の解決策。Zidane no sustituirá a Benítez/ジアン・ノー・ススティトゥイラ・ア・ベニテス(ジダンがベニテス監督を引く継ぐことはない)」と断言していたペレス会長により、サンティアゴ・ベルナベウで発表され、その時は当人も「タイトルと獲るために全力を尽くす」といったシンプルなコメントだけで、あとは奥さんとマドリーのカンテラ(下部組織)でプレーする4人の息子さんたちと一緒に檀上でポーズするぐらいで良かったんですけどね。

▽翌火曜にはちょうど、レジェス・マゴス(東方の三賢人の祝日、スペインでは伝統的に子供たちがプレゼントをもらえる日となっている)を控え、ファンサービスとして1年に1回の恒例となっている公開練習に挑み、駆けつけたサポーター約7000人から拍手を浴びた後、RMカスティージャ(マドリーのBチーム)監督となって1年目だった昨季は忌避しながらも、今季から行うようになった監督記者会見に初めてトップチームの指揮官として登場することに。ええ、今度はサンティアゴ・ベルナベウのプレス・コンファレンスルームで行われたこちらでは、今後のチーム運営について事細かに質問に答えていましたっけ。

▽曰く、「マドリーで大切なのは美しいサッカー。自分もそれを目指す。Fútbol ofensivo y equilibrado/フトボル・オフェンシボ・イ・エキリブラード(攻撃的でバランスの取れたサッカーをね)」から始まって、「Quiero darle mi toque personal, un toque ofensivo/キエロ・ダールレ・ミ・トケ・ペルソナル、ウン・トケ・オフェンシーボ(自分の個人的なタッチも加えたい。攻撃的なニュアンスをね)」とか、BBC(ベイル、ベンゼマ、クリスチアーノ・ロナウドの頭文字)については「la idea es clara, jugar con los tres/ラ・イデア・エス・クラーラ、フガール・コン・ロス・トレス(3人を使ってプレーするというアイデアははっきりしている)」、更には「Ganarlo todo/ガナールロ・トードー(全てを勝ち獲ること)。ウチには獲得できるタイトルが2つあるから、それにトライする」と、今季の目標なども話していましたが、何にしてもチームには才能ある選手が揃っていますからね。

▽あまり、やろうとしていることはペレス会長任期中の12年間で10番目の監督となった彼も変わらないような気はしますが、そこは実働グループのやる気次第。今季、大勢が慕っていたアンチェロッティ監督がいなくなり、実務肌のベニテス監督とはフィーリングが合わなかった彼らのハートを掴むことができれば、まだシーズンは半分残っていますし、どんなことでも可能かと。ええ、もちろん失格となったコパ・デル・レイだけは別ですけどね。

▽え、そんなお隣さんを尻目に今季も手近なタイトルとしてまず、コパ優勝を目指しているアトレティコは試合があったんだろうって? その通り、今週は月曜にクラネビテル(リーベル・プレートから移籍)、火曜にアウグスト(セルタから移籍)の入団プレゼンをひっそりビセンテ・カルデロンで行った後、水曜に彼らはコパ・ダービーとなった16強対決1stレグでまたしてもエスタディオ・デ・ラス・バジェカスに乗り込んだんですが、いえ、もちろん昨今の試合展開から楽勝なんてまったく予想はしていなかったんですけどね。昨年末最後のリーガでの対戦を思い出しても苦戦することは目に見えていたんですが、そこへ加えて、シメオネ監督が最初のレウス(2部B)戦同様、オブラク、ゴディン、ファンフラン、フィリペ・ルイス、コケ、グリースマンらにお休みを与え、コパ用イレブンを投入したから、もう大変だったの何のって。

▽実際、その日のバジェカスはスタンドも半分ぐらいしか埋まらず、ラージョの方もリーガとは違うスタメンだったんですが、アトレティコではここ2試合、大活躍をして株が上がり、クラネビテルとアウグストをダブルボランチで早速デビューさせたため、トップ下の大役を仰せつかったトマスがちょっと上づってしまったんですかね。どちらもなかなか点の取れない展開でしたが34分、自陣エリア前からクリアしたボールをナチョの正面に送ってしまい、そのミドルシュートで先制されてしまったから、まったくツイてない。ええ、これにはシメオネ監督も「es un chico joven y hay que llevarlo sin la ansiedad de estos últimos días en el entorno de él/エス・ウン・チコ・ホベン・イ・アイ・ケ・ジェバールロ・シン・ラ・アンシエダッド・デ・エストス・ウルティモス・ディアス・エン・エル・エントルノ・デ・エル(彼は若いんだから、ここ数日のように周囲が焦らせることなく、育てていかないといけない)」とフォローするしかありません。

▽それでもまあ、0-1なら来週、ホームでの2ndレグもありますし、真っ青になる程のこともなかったんですが、このところ早めの交代で味をしめたシメオネ監督は後半10分には近頃、あまりいいところを見せてくれないオリベルとアウグストを引っ込め、サウルとビエットを入れる攻撃的メンバーチェンジを実施。するとこれが見事に当たり、21分には右サイドからキニを振り切ってビエットが入れたラストパスにサウルが反応、エリア内からシュートを決めて同点にしてくれたから、何とも有難いっちゃありません。いえ、2年前、レンタルでラージョに修行に来ていた当人は遠慮して、大袈裟にゴールを祝うことはしませんでしたけどね。

▽「El chico que vieron crecer en Vallecas sigue creciendo/エル・チコ・ケ・ビエロン・クレセル・エン・バジェカス・シケ・クレシエンドー(バジェカスで成長するところを見せた選手は成長し続けている)」(サウル)と後で言っていたように、こういうのこそが最高の恩返しなんでしょうが、ラージョのパコ・ヘメス監督にとってはまさに痛し痒しだったかも。それでも幸い、34分にはCKからビエットが放った至近距離のシュートはGKファン・カルロスのparadon(パラドン/スーパーセーブ)とゴールポストに阻まれて決まらず。

▽おかげでラージョは1-1のままで2ndレグを迎えられることになり、その日は2-2で引き分けたリーガ前節のレアル・ソシエダ戦の後、「ウチは1部のチームじゃない」というコメントから、「No son de Primera, sino de 'Champions'/ノー・ソン・デ・プリメーラ、シノ・デ・チャンピオンズ(1部ではなく、CLにいるチーム)」と、ヘメス監督も自軍を大幅に格上げしていたものの、点を取ることは苦手でも、基本的に守りは超一流のアトレティコが2ndレグでは0-0でもいいとなると、見通しはあまり芳しくないでしょうね。

▽ただラージョにとって、もっと重要なのは週末のリーガ戦、土曜にレバンテのホームを訪れる試合で勝つことで、何せこのところ、降格圏の19位が定位置になってしまっていますからね。相手は最下位ですが、コパにはすでに敗退していて今週ヒマだった上、前節では兄貴分のアトレティコが終盤にトマスのゴールが決まるまで勝負を決められなかったという例もあるため、心してかかる必要があるかと。実際、残留ゾーンまではたった勝ち点2差しかないので、シーズンの前半終了戦でもある、この19節では不名誉な順位から脱出できたらいいのですが。

▽そしてアトレティコは日曜午後8時半(日本時間翌午前4時半)から、やはりアウェイでセルタ戦なんですが、こちらの目標は現在、2位バルサと勝ち点差2、3位マドリーと同4ある首位の維持と極めて贅沢なもの。もちろん試合消化数が1つ少ないバルサがクラブ・ワールドカップのせいで延期したスポルティング戦を2月に済ませた後どころか、1月30日の直接対決でカンプ・ノウに乗り込めば、簡単に転落してしまうのかもしれませんが、まあ、それまではねえ。金曜からは大雨が続き、バライドス(セルタのホーム)周辺が浸水しているなんて心配な情報もあるものの、アウグストもマハダオンダ(マドリッド近郊)でのセッションでは先発組に抜擢され、忘れ物も取りに行ける早々の古巣訪問を心待ちにしているはずですし、いつものように少ない得点をガッチリ守って勝ち点3に変えられればと思います。

▽一方、そんなセルタも今週木曜はコパでカディスと当たり、リーガ5位の実力相応で0-3と快勝。マドリーが失格になった恩恵を受けているんですが、そのマドリーがこの土曜の午後8時半(日本時間翌午前4時半)に対戦するデポルティボは水曜にミランデス(2部)とのコパで1-1の引き分け。あまりないことですが、相手の方が休息期間が短いのはジダン新監督にとって、有利に働くかもしれません。加えてサンティアゴ・ベルナベウでの試合とあって、ファンに絶大な人気を誇る彼がベンチで指揮を執れば、これまでのようにpito(ピト/ブーイング)が聞こえることもなく、スタンドと一体になって勝利を目指すことができる?

▽それには現役時代はマドリーで長くプレーしたビクトル監督も、「el principal cambio será en el plus de ilusión que tiene la gente/エル・プリンシパル・カンビオ・セラ・エン・エル・プルス・デ・イルシオン・ケ・ティエネ・ラ・ヘンテ(最大の変化は人々により大きな夢を抱かせること)」と用心していましたが、新監督の幸運は他にもあって、とうとうカルバハルも回復し、この試合前にチームの負傷休場者がゼロに。いえ、バレンシア戦でレッドカードをもらって退場したコバチッチだけは処分で出られませんけどね。

▽金曜の前日練習からは、BBCにイスコ、そしてモドリッチ、クロースという、アンチェロッティ前監督が好んだ布陣、ついでに言うなら、昨年のクラシコ(伝統の一戦、マドリーvsバルサ戦のこと)で0-4と惨敗した時のスタメンからハメス・ロドリゲスを除いただけ、とはいえ、十二分に攻撃的なものが予想されていますが、当時はベンゼマとベイルが負傷明けだったのに比べ、今は2人とも好調を維持しているのは好材料になるかと。何せ、昨年12月にはカンプ・ノウでバルサから引き分けをもぎ取ったデポルティボですが、ここ2試合はリーガで白星がなく、順位も7位と少々、調子を落としていますしね。順当に行けば、マドリーが勝つんじゃないかと思いますが、注目はプレーでファンをさせることができるかどうかになりそうです。

▽そしてもう1つの弟分、コパはラージョに及ばず敗退となり、肩の荷が下りているヘタフェは日曜にセビージャとのコパ・ダービーに0-2で負けているベティスと対戦するんですが、実は彼らは月曜の前節スポルティング戦に2-1と逆転勝利を収め、現在は13位と比較的落ち着いた順位に。相手も同じ勝ち点で14位ですから、実力の拮抗した、いい試合になりそうな気配はあります。そうそう、折しも木曜には今季シーズン後半のアボノ(年間指定席)を80ユーロ(約1万円)という爆安値段で売り出したヘタフェですが、そのホーム11試合にはこのベティス戦も含まれているとか。マドリーやアトレティコ戦もこれからあることですし、ようやく今年になってブカネーロ(ラージョの過激なサポーター集団)がストを止め、応援を再開したバジェカス同様、いつもガラガラなコリセウム・アルフォンソ・ペレスもその恩恵でもう少し、賑やかになってくれるといいですよね。

【マドリッド通信員】
原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している

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【倉井史也のJリーグ】いよいよ夏休みってことで好カードが続々の中であえてここをこう予想?!の巻

▽だいたいさ、本当のチャンピオンは年間王者なわけですよ。だからチャンピオンシップは年間王者が優遇されるわけだし。たとえファーストもセカンドも取れなくても、一年で一番勝点を稼いだら、そいつが一番ってワケ。 ▽とか! それくらい! 強気でもいいと思うんですよ。ここまで無冠の川崎がタイトルに邁進するには、それくらい気持ち強く持っても。 ▽ところがね……怪我人が多くてね……せっかく失点が少なくなってたのに……でもって、今週からは10番がリオ行っちゃったし……。中村憲剛が戻ってきそうなのはいいニュースだけど、実は最近一番チームのエンジンだったのは大島僚太だから、これは不安材料が大きいわけですよ。 ▽でも! 今週の! 対戦相手はFC東京だし! 連敗中だし、失点多いし。 ▽いやいやいやいや。それがFC東京って、実はそんな悪くないと思うんですよ、本当は。メンツは揃ってるし選手層は厚いし。鳥栖と福岡には終了間際まで勝って当然って試合、してたじゃないですか。先週の柏戦だって何度も決定機をつくってたのに、一発で負けてしまったわけだし。九州勢との戦いでは終了間際の自信のなさがモロに出ちゃったけど、前節は攻め込んで攻め込んで、あら? カウンター一発? みたいな負け方で、そりゃ運がないっていう感じじゃないですか。 ▽ネイサン・バーンズ下げて平山相太投入っていう采配も、終了間際に高さが欲しいってコトでわからなくもありません。いろいろ理にはかなった采配な雰囲気もあるわけでして。 ▽こういうチームって一つきっかけがあると上向いちゃう、みたいなとこ、あるでしょ? 苦しんだ分、そのあと楽になる感じ。どうもFC東京って今、夜明け前の一番暗いところをウロウロしているってのがぴったりだと思うんです。ちゅうことで、多摩川クラシコって川崎にとってはちょっとやっかいな感じ、ないッスか? ▽でもなぁ、今年のこのコラムって、「いいよ!」って書くとこけちゃうし。まぁ「やばいよ」って書いても、書かれたチームは高確率でこけちゃってるわけで、なんとも心苦しいわけですが……。あ、そうか! 引き分け! ってことで今週は川崎vsFC東京を引き分けって予想しておきます! <hr>【倉井史也】 試合当日は、はやる気持ちを抑えられずスタジアムに受け付け開始と同時に駆けつけ、選手のバスが両方行ってしまうまで名残を惜しむ。自慢は対戦カードの因縁をよく覚えていること。特にサポーター寄りのネタが得意。パッと見は若いが実は年齢不詳のライター。 2016.07.21 10:30 Thu
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【原ゆみこのマドリッド】動き出すチームが増えてきた…

▽「出るだけじゃダメなのよ」そんな風に私が首を振っていたのは月曜日。アトレティコの新戦力、ブルサリコの入団会見のインタビューを読んでいた時のことでした。彼はここ3年の間にジェノア、サッスオーロでプレーしていて、セリエAとはいえタイトルを争うといった次元には無縁。プロとしてのキャリアを始めたディナモ・ザグレブはクロアチアリーグの常勝チームとはいうものの、CLの世界ではグループリーグに出るだけで大成功というレベルのクラブでしたからね。そこからすれば、この3年間で2度もCL決勝に進出したアトレティコは超のつく強豪に見えるのでしょうけど、移籍して一番の夢が「またチャンピオンズのファイナルまで行くこと」って、これに納得するアトレティコファンはあまりいないのでは? ▽もちろん、この日曜日の夕方にマドリッドに到着したばかり。アトレティコについては、ユーロのクロアチア代表で一緒だったマンジュキッチ(ユベントス)に「クラブについてポジティブなことの全て」しか聞いていない、24歳のブルサリコですからまだわからないのは当然ですけどね。会見後は早速、ロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)のキャンプ地に移動。言葉の通じるスロベニア人のオブラク、モンテネグロ人のサビッチと話をしていましたっけ。水曜日には右SBのポジションを争うことになるフアンフアン、そして8月に戻って来るグリーズマンらと知り合えば、決勝に出ることだけではなく、勝つことがどんなに大事なのかと少しは想像できるのではないでしょうか。 ▽まあそんなことはともかく、実を言うと、アトレティコの新戦力プレゼンは先週から始まっていて、木曜日にはサントス・ボレとディオゴ・ジョタが先陣を切って、ビセンテ・カルデロンのVIP用ホールでお披露目されることに。いえ、前者は昨年の夏、加入が決まった後、そのままコロンビアのデポルティボ・カリにレンタルされていた20歳のFW。19歳の後者も昨季はポルトガルのパソス・デ・フェレイラでプレーしていた攻撃的MFということで、ほとんど知名度はありません。すぐさま即戦力として、今季のチームで働けるかどうかもまだ不明ですからね。おまけに先週末、リーベル・プレートから来たシアッパカッセに至っては、まだFIFAの許可が取れていないため、選手登録もできない17歳のFWとあって、皆、将来を見据えての補強のようですが、その中で別格なのはアルゼンチン人ウィンガーのガイタンかと。 ▽ええ、こちらはお隣、ポルトガルの強豪ベンフィカで6年も揉まれた28歳で、この夏のコパ・アメリカではメッシが負傷で出られない間、その代役を務めた程の実力者ですからね。水曜日に代表チームメートのアウグストと一緒にプレシーズンキャンプに参加する予定ですが、その彼のプレゼンでは、先行3人の時には200人弱ぐらいしか、スタンドに見学に来なかったアトレティコファンも少しは増えるかも。いえ、もちろんクライマックスはジエゴ・コスタ(チェルシー)なり、ケビン・ガメイロ(セビージャ)なり、イグアイン(ナポリ)なり、大物CFが来た時ですけどね。それにはまだしばらく時間がかかりそうなので、とりあえずはチーム力を高めてくれそうな選手を歓迎しておかないと。 ▽そうそう、最初のボレとジョタのプレゼンは今季の新ユニフォーム発表も兼ねていて、その日からスタジアムのオフィシャルショップでもクラブのオンラインショップでも、ネームなし85ユーロ(約1万円)で販売が始まっています。第1ユニは背中にもストライプが戻ったぐらいで、第2ユニはとにかく真っ黒、ポイントは何故か、黄色いクラブのエンブレムと、あまり変わった趣向はなし。となると、付加価値を与えるためにもやっぱり、ビッグタイトル獲得をするしかないと思ってしまったりもするんですが…。 ▽え、それでロス・アンヘレスでの地獄のキャンプの方はどうなっているんだって? 一応、日曜日には最初の休養日を迎え、順調にワンクールを終わったんですが、あまりにフィジカルトレーニングに熱を入れたため、先週木曜日にはボルハ・バストンが手首を骨折するなんて事故も起こることに。いえ、シメオネ監督が先頭に立って、起伏のあるゴルフ場を50分間ランニングなんてことは別にいいんですけどね。選手たちを退屈させないためか、小道具を取り入れることが好きなアトレティコの練習ではゴム製のクッションを置いて、その上でボールを蹴ったりしているのを見る度、自分なら、すぐ引っくり返って捻挫だろうと懸念していたり…。するとまさか、瞬発力を鍛えるため腰に巻いてダッシュするバネのハーネスを地面に固定していた杭が抜け、選手に直撃するなんてことあっていい? ▽いやあ、昨季はレンタルで乾貴士選手のいるエイバルでプレー、18得点を挙げたのもの、アトレティコ定着の決め手にはならなかったボルハ・バストンですが、手でも骨折となると、シーズン開幕に間に合わないかもしれませんしね…。プレミアリーグからいいオファーも来ているというのに、気の毒なことになりましたが、その他の負傷者はヒザを痛めたGKモジャぐらい。放出選手については、今のところ、キャンプ参加メンバーからは出ていないんですが、ビエットなどは土曜日に他の選手とバスでマドリッドに戻らず。そのせいで、いよいよバルサ移籍が決定かと言われていましたが、結局、月曜日には普通に練習していましたしね。 ▽まだこの先、どう転ぶかわかりませんが、金曜日までロス・アンヘレスでセッションを行った後、チームはヌマシア(2部)との親善試合をして、その後はオースオラリアへ。ただ、TV中継が予定されているのが29日のトッテナムとの試合だけなので、午後のセッションだけとはいえ、ボールを使った練習もしている彼らの実際の仕上がりぶりをファンが目にできる機会は、かなり待たないと巡って来ないというのは、ちょっと残念ですね。 ▽そしてその間、お隣さんはどうしていたかというと。いえ、ユーロでポルトガルのキャプテンとしてトロフィーを掲げた後、イビサ島で家族や友人とバケーションを楽しんでいるクリスチアーノ・ロナウドの海パン姿は毎日のように私もTVや写真でお目にかかっていたんですけどね…。偶然にも、やはり島の同じ地区で休暇をとっていたメッシのヨットと彼のヨットが同じハーバーで、中3つを隔てて係留されていたり、モラタやセルヒオ・ラオス、それにアトレティコのコケも先週はイビサにいたと聞いた日には、自分も行ってみれば、誰かに道でバッタリ遭ったりするんじゃないかと思ったなんて話はさておいて…。夏の国際大会不参加組のレアル・マドリーの選手たちは土曜日にバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場に集合。 ▽もちろん各国代表でも活躍するメンバーの多いチームですから、初日は14人と少なかったんですが、中には数日前から施設に通ってトレーニングを始めていたマルセロやカルバハルといった、勤勉な選手たちも。ただ彼らの場合は暑いマドリッドでグラウンド練習を行うことはせず、恒例のメディカルチェックを行った後、早速、翌日曜日にはジダン監督の2人の息子さん、RMカスティージャ所属の21歳のエンツォとフベニル所属のGK、18歳のルカを含めた11人のカンテラーノ(下部組織の選手)も連れて、カナダのモントリオールに向けて出発することに。 ▽現地ではリッツ・カールトンに宿泊し、MLSのモントリオール・インパクトの練習場でプレシーズンのトレーニングをする彼らですが、驚きの早期合流となったのはコバチッチで、予定なら、ユーロのクロアチア代表でバスト16まで進んでいたため、先輩のモドリッチ共々、25日戻ってくれば良かったんですけどね。アトレティコのフィリペ・ルイスの例もありますし、時には休暇を短縮してもチームメートに遅れを取りたくないと思う選手はどのチームにもいるよう。一方、スペイン代表で同じベスト16敗退組だったモラタの合流はこの水曜日になりますが、やはり先週、発売となった新ユニフォームでは背番号21をもらっているものの、このままマドリーでプレーするかはまだ、様子見の状態だとか。 ▽クラブは、売却はないと言っていますし、ユベントスに移籍する前に買い戻しとなった場合、450万ユーロ(約5億3000万円)だった年棒も600万ユーロ(約7億円)にアップしてもらっているとはいえ、チームでのBBC(ベイル、ベンゼマ、ロナウドの頭文字)優位は今季も変わりませんからね。8月9日のUEFAスーパーカップこそ、ユーロ決勝でヒザの靭帯を痛めたロナウドはイビサ島のクリニックに通い、高気圧酸素療法を受けて回復を急いでいても間に合わず。土曜日に27歳のバースデーを迎え、2女をもうけた彼女のエマ・ライ・ジョーンズさんにプロポーズを承諾してもらったことをツィッターで報告していたベイルも合流が今月末となるため、活躍の場はあるとしても、その後はベンチ要員になるかもしれないのでは、チェルシーのコンテ新監督から熱烈オファーを受けているという当人が用心深くなるのも当然だった? ▽一方、カナダ・キャンプに参加しながら、ネーム入り新ユニフォームがオフィシャルショップに置いておらず、背番号もまだ割り当てられていないのはナチョとヘセで、どうやら前者はローマへの移籍話が着々と進んでいるよう。後者は先週、レゲトン歌手としてデビューして、『Yo sabia/ジョ・サビア(自分は知っていた)』というタイトルのビデオクリップを公開したばかりですし、クラブのネームバリューが売り上げに与える影響を考えても、移籍はせずに来年の契約満了を待つのが得といったところかと。ちなみに27日にラモスやルーカス・バスケスらと一緒にチームに合流するハメス・ロドリゲスは、フロントは新しいギャラクティコ獲得に備え、売却したい意向であるものの、ジダン監督から待ったがかかっているようです。 ▽そんなマドリーは26日までモントリオールに滞在した後、翌日に初のプレシーズンマッチを行います。セビージャから転職しUEFAスーパーカップの相手はせずに済むことになったエメリ監督率いるPSGとオハイオで対戦です。続いて30日にはミシガンでチェルシーと顔を合わせ、8月3日にニュージャージーで1年前にマドリーを離れたアンチェロッテ監督率いるバイエルンと戦って、スペイン帰国の途につきます。それ以外の親善試合は16日にサンティアゴ・ベルナベウ杯でスタッド・ランスを迎えることが決まっていますが、いやあ、金曜日にはもうリーガの年間スケジュールも出ましたしね。 ▽それによると、今季のスタートは8月19日からの週末で、マドリーの初戦は21日の日曜日にアウェイのレアル・ソシエダ戦。アトレティコも同日、こちらはホームスタジアムとして最後のシーズンを迎えるビセンテ・カルデロンで昇格組のアラベスが相手となりましたが、まさかクラブ史初のリーガ1部開幕戦に降格したマドリッドの弟分、ヘタフェとラージョの悲哀を今季期待の新弟分、レガネスが味わうとは。というのもアウェイながら、セルタとの1節を月曜日に回されてしまったからですが、ホームスタジアムのブタルケでは観客席を1万1000人まで増やす計画が進行中。とはいえ、平日試合が増えたら、今は昇格に夢見心地になっているサポーターたちも足を向けにくくなるかも。まあ、その辺はまだ始まってみないとわかりませんが、ユーロのせいもあって、どうにも今年はオフシーズンが異様に短い気がするのは私だけでしょうか。<hr>【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。 2016.07.19 12:30 Tue
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【東本貢司のFCUK!】ビッグ・サムへのラヴコール

▽さあて誰に一票投じるべきか、まさか“マス”つながりってだけでも縁起でもないし、あのご婦人はどうせ孤立する、するとやはり・・・・じゃなかった、話は“傷だらけ”のスリーライオンズに喝を入れる新監督の人選。実はもう大方の見立ては決まっている。多分、FAの三人委員会の腹も。こんな状態でポンとユルゲン・クリンスマンでもあるまい。グレン・ホドルは論外。仮にもここでヴェンゲル教授を担ぎ出すのは気が引ける。エディー・ハウには諸々荷が重かろう。ハリー・レドナップはFAと没交渉中。だとすればもう“ビッグ・サム”しかおらんのですよ。現サンダランド監督サム・アラダイス。ダーツの腕はプロはだし、ちょいと睨みを利かせりゃ泣く子も黙る、くわえ葉巻がお似合いの貫禄のドンそのもの。いや、そんなことはどうでもいい。アラダイスといえば知る人ぞ知るイングリッシュフットボール界きっての「再生の名人」、少なくとも短期修復はお手の物(?)。 ▽ご存知の方も少なくないと思う。彼は“その昔”、イングランド代表史上初の外国人監督、スヴェン・ゴラン・エリクソンが辞任する際、一時は後継者の最有力候補といわれ、本人もいたく乗り気だった(結局、選ばれたスティーヴ・マクラーレンはまもなく失脚した)。だが、本国のその筋の通や識者を除けば、ビッグ・サムの何たるかを述べよとの問いに、さてどれだけの人が澱みなく答えられるかといえばかなり怪しい。実は実はこのお方、存外細かく、かつ相当ネチっこい策士なのである。かつてボルトンでアラダイスの指揮下にいたケヴィン・デイヴィスの証言:「規律を絵に描いたような人。ボルトン時代、我々は彼のバイブルを熟読する義務があった」。デイヴィスのいう「バイブル」とは約25ページからなる文書でいわば「ビッグ・サム肝入りの倫理書」。あれをしてはいかん、こういうときはこうでなければならん、などの文言がビシバシ書き連ねられていたらしい。言い換えれば、そこに書かれている「掟」は絶対であり、反論など一切許されなかったともいう。 ▽しかし、そのおかげか、ビッグ・サムの下で(短期にしろ)プレミア有数の戦士に再生、もしくは成功して名を残した“そろそろ過去の人=ややトウの立ちかけた”内外のプレーヤーも少なくない。ギャリー・スピード、フェルナンド・イエロ、イヴァン・カンポ、ミチェル・サルガード、ユーリ・ジョルカエフにJ・J・オコチャ・・・・人呼んで「ワイルドカード・プレーヤー好み」の再生請負人! そうは言っても、哀しいかな、その手腕を歴史に刻み付ける勲章はない。惜しかったのは、2004年のリーグカップ決勝、屈した相手はミドゥルズブラ、その指揮官はほかでもないスティーヴ・マクラーレン! なんと、アラダイスは二度までもマクラーレンに煮え湯を飲まされたことになる。仮にもしもこのときの結果が逆の目に出ていたら、その2年後の代表監督後継人事にも反映されていた・・・・かどうかはわからない。マクラーレンがエリクソンの副官だったからには、やはり疑問だろう。それにビッグ・サムがスウェーデン人の下に就く屈辱を良しとしたはずがない。 ▽2015年の『ガーディアン』紙にこんな内容の記事が載っている。「アラダイスのチーム作りの基本は『適材適所』。それも特に、スローイン、フリーキック、コーナーキックにおいて最適の人材を鍛え上げ、もしくはリクルートする。彼は個々の能力を最大限に引き出すノウハウに長けている」―――とどのつまり、マン・マネージングの達人、誰の何たるかを見抜き、飴とムチの使い分けを心得ている、というわけ。ならばこそ、自信を根こそぎぶった切られた今のスリーライオンズに、ビッグ・サム流処方箋の効き目を期待できるという理屈である。そうなると、いくつか見えてくるものがありそうだ。ルーニーをストライカーに戻す(これはジョゼ・モウリーニョと同意見)、ケインのコーナーキッカー役を解除する、陰が薄れかけているバークリーとストーンズのエヴァートンペアに陽を当てて攻守の要役を課す・・・・などなど。いずれも、多くの識者が結果的に首を傾げ続けてきたホジソン采配へのアンチテーゼ。ビッグ・サムなら平然とそれらをやってのけられる。 ▽他にも、まさかと思いたくなる“大抜擢”も(と、アラダイスを知る識者は“勘ぐる”)。例えば、フランク・ランパード、スティーヴン・ジェラード、ジョン・テリーの復帰・・・・というのはさすがに無理筋だとしても、アンディー・キャロルの再リクルートはある、とか、中にはジャーメイン・デフォーの名前を口にする声も。それぞれ、ウェスト・ハム、サンダランドでビッグ・サムの薫陶を受けた面々だからである。ま、いずれにしても、何か面白いことが起きそうな予感が、アラダイスの“周り”に色濃く漂っているのだけは確かだ。それも、長年イングランドの“中堅以下”で采配を振るってきた経験と見識に裏打ちされているからこその説得力付き。この点はさすがにクリンスマン辺りには逆立ちしても敵わない。一度は消えた(消えかけた)才能をもってくるとなると、ヴェンゲルも躊躇するはず。となれば、今こそビッグ・サムの登場が切り札に見えてくるはず。なに、長期政権など本人とて思いの外。修復と再生が急務の今なら、答えはもう出ているはずである。 <hr>【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.15 11:45 Fri
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